移住したい場所、生涯したいこと、五感で体験して決めるといい
北原 良太さん
長崎県→江北町
- 移住種別Iターン
- 移住の時期2015年
- お仕事農業 / 農業イベント団体「ベリーボタン」運営
- 休日の過ごし方 コーヒーを飲みながら読書
北原良太さんは、佐賀県のすぐ隣、長崎県の漁師の家から、佐賀県江北町の農家の家に移住してきました。もともと農業をしたかったわけではない。でも、慣れない農作業をして地域に根を張り、地域の課題を目にしていくうちに、気持ちが変化してきたそうです。
自分と自分の家族にとって、大切なことは「食」。その「食」に関わる仕事ができているということが、佐賀県に移住して一番良かったこと。
これから農業をしたい方。今住んでいるところよりも小さな町へ移住することが不安な方に読んでほしい、北原さんのインタビューです。
「結婚を決めた相手の家業が、大きな農家でした」
-- ご出身は近いんですよね。
北原良太さん (以下、北原):
長崎県長崎市です。実家は漁師の家で、魚を獲っていて。継がない、ということは決めてたんです。肉体労働も、外で働くのも好きじゃないんですよ本来。
-- それが佐賀県で、農家さんに。
北原:毎日めっちゃ外で働いていますね。私はインドア派なんです。できれば一日中、コーヒーを飲みながら本を読んでたい。何もしなくてもいいなら何もしない。それが理想の暮らしです。
-- なのに農家もやるし、地域の方々と一緒にマルシェやイベントをするし。ずっと外にいらっしゃる。
北原:転機はほんと結婚ですね。妻は大学のゼミの後輩で、大学時代は何もなくて。
-- はい。
北原:で、まあ福祉の領域でインドアの仕事を始めて、一回転職して。転職先に妻がいて。
-- たまたまですか。
北原:はい。結婚するなら長崎に住むのか佐賀に住むのかという話をして。子育てするなら女性の実家が近い方が安心だよね。じゃあ佐賀にしようという流れです。
-- まぁそうなりますよね。
北原:妻は三姉妹なんですよ。北原家の末っ子で。そしたら、ご実家のお父さんから、農業やってくださいと言われて。たしかにこれだけの農業をやってらっしゃるのに継ぎ手がいなくてなくなってしまうのはもったいないなと思ったわけです。
-- もったいないというのは?
北原:お父さんが農家としての基盤を、しっかり整えており、道具も揃っているし、土地の面積もしっかりある。結婚当初も、もったいないと思っていたけど、数年経った今となっては、よりその価値がわかって、やっておいて良かったという気がもっとしています。

(広大に広がる麦の金。これがなくなるのはたしかにもったいない。)
「困っている人が目に着いたら、ついつい身体が動いちゃう」
-- 北原さんは、農業関係のマルシェやイベントを開催する団体『ベリーボタン』の創設者でありリーダーとして、県内でも知られた存在です。もともとのインドア派が、どうして活動を外へ外へ広げたのでしょうか。
北原:お米の販路を広げたいという気持ちが最初です。農業を始めたのが10年前くらい。当時は米が売れない、売れても安い、みたいな状況。買っていただく、生産者と消費者で繋がっていただく機会を増やしたいと思って農家の仲間たちと活動していたところ、佐賀県庁さが創世推進課と関わるようになったんです。
-- 民間は民間で、と言われることもある中、佐賀県は頑張っている人を探してくれるんですよね、行政の方から。
北原:はい、自発的に地域を活性化する団体のために用意したこんな制度がありますよ、こんな補助金を使えますよということを教えていただきました。そうなると、飲食店とコラボしたい、販売用のテントをおしゃれにしてみたい、子どもたちの農業体験もしてみたい、写真展もやってみたい。
-- やりたいことがどんどん増えて。
北原:農作物を売りたい、という目的から、やることが増えていくうちに仲間たちの気持ちがだんだん町おこしや教育の方にシフトしていった感があります。多くの人が集まると、地域の課題が見えてくる。地域の課題に触れると、誰かがやるしかないじゃん、という気持ちが芽生えてくるんですね。私が住む江北町は人口が1万人弱。自分たちみたいな小さい団体が何かを起こすには、ちょうどいいサイズ感だなとも思っていて。
-- 小さいけど、佐賀県のほぼ中心に位置していて。
北原:そう。小さいけど特急は止まるしどこへでも行けるし、保育園もちゃんとあって、小中学校も病院もあって、すごいジャストなサイズ感で、気に入ってるんですよ。江北町、住みやすいなって。

(ゆったり話す北原さんの背景に、農家の立派な床の間。)
「ちょうどいい暮らしを維持するための、穴を塞ぐ作業は大変で楽しい」
-- 移住する時って、ご近所のことは多少気になるけど、町のサイズみたいなことまでは考えないですよね。
北原:やっぱり活動を始めてみて、町のことがよく見えるようになってきたということなんでしょうね。地域の人口が減っていくというのは、船に穴がホゲて(穴が空いて)いくようなものです。穴がホゲていることに気づいちゃったから、みんなで塞ごうというのが今の活動。自分にとって心地いい規模感で、町が維持され続けていくにはどうしたらいいんだろうか。ということを考え続けています。
-- 穴を見てみぬフリする人は多いじゃないですか。でも北原さんは…
北原:なんか多分、放っておけない人なんでしょうね。前職は福祉。困った人を放っておいてはいけないような仕事でした。電車とかバスでも、率先して席を譲るんですよ。
-- そう考えると農業もマルシェも、そうなのかな。困っている人が目に入ってしまったら、じゃあやるかと、つい立ち上がっちゃった。
北原:あ、そんな感じです。県が主催する『ローカリスト』とか『山の会議(仮)』。地域の中で「何かを始めたい」という方々が集まるイベントがいくつもあって、よくお話をさせていただくんです。ゼロベースで始める難しさ、軌道に乗せるために大事だったこと。そんな話。
-- のんびり本を読んでいたい人が、人前で動く、しゃべる。そういう活動も、楽しめていますか。
北原:自分が頭の中で考えていることを、アウトプットする機会をもらえたのはデカいと感じています。なんとなくしていたことが、こうしてしゃべりながら言語化されていく。それによってだんだん、組織や仲間と一緒に動いていく力が増していく感じがするんです。
-- 誰か、北原さんの代わりに穴を塞いでくれる人も育っていくといいですね。
北原:はい、山とか、地域の活性化に関わる人材育成を成し遂げたいという気持ちで動いています。自分をインドアに戻してくれという気持ちです。本来の私は、何もしたくない人なんです。困っている人が目につかなかったら。

(麦の様子を見る(カメラマンに見させられている)北原さん。)
「江北町だからできる、子どもたちの五感を刺激する体験を」
-- 将来的に、どういう状況が生まれたら、北原さんの活動は成功ですか。
北原:たとえばですけど、原油とか肥料とかの価格が上がるとするじゃないですか。
-- はい。
北原:そうすると、お米を作る原価も上がるから、価格を上げないといけない。お互いの事情をわかっている上で、「だからちょっと価格を上げるね」みたいなことを言いやすい環境。
-- お互いに気持ちよく、配慮しあえる関係性の構築ですかね。普段の距離が遠いと、遠慮しあったり、逆に「うちも苦しいのになんだよ!」とか「おたくのアレ、高すぎない?」とか衝突することだってありますよね。
北原:みんなでひとつのチームというか。そういう関係性がある町を、子どもたちに引き継いでいけたらいいなと。移住者が来てくれるのも嬉しいけど、ここで育った子がここに帰ってくることも大事。そのために、子どもが喜んでくれることをしていきたい。
-- 教育、郷育ですね。最近ではどういう体験を喜んでもらえましたか。
北原:農業用水のため池で、カヌーとかですね。カヌーを漕ぐ、順番を待つ、その間に飛んできた虫を観察する。五感から得られる情報ってすごく大事。全部の体験が、人間の柱を太くするように思います。
-- 地方に住んでいてもデジタルは平等に便利ですけど、そこに佐賀の、江北町の魅力はあるかもしれませんね。でもほら、北原さんはインドアで何もしないでぼーっとするのが好きと言ってましたけど、子どもに関しては外での体験を大事に考えていらっしゃるんですね。
北原:そうですね、漁師の子どもだったから、キャンプとかBBQとかよく連れ出されて、意外に楽しんでいたのかもしれない。山の中で焚き火をして、ぼーっと子どもたちを見ているとき、すごく楽しいです。なんか人間を見るのおもしろいですよね。学生時代も一人で喫茶店で、通り過ぎる人の生活をぼーっと想像したり。
-- 穴を塞ぐ活動を通して、地域の人たち、子どもたちと繋がっていくのも…
北原:一人ひとり、違う人を見ているのが楽しいのかもしれないですね。

(広々としたため池でカヌー体験の様子。)
「食が大事、だからこの移住は大正解でした」
-- 家族という単位で、移住して良かったことを教えていただけますか。
北原:「食」ですね。ダントツで「食」がいい。米と玉ねぎはカルチャーショックがありました。うちは米が中心ですけど、玉ねぎ、キャベツ、アスパラ、いちご、ぶどう、シャインマスカット、いろんなものをご近所さんからもらえるんですよ。全部おいしくて、いつも感動します。
-- ああそうか、ご近所さんも農家だと、物々交換みたいな。
北原:うちの子は、シャインマスカットが高級品だって知らないですもんね。私は生まれは漁師の家で、おいしい魚もずっと食べてきましたし、食には不自由しない人生です。そういえば出先で何か美味しいものを見つけたら、出店している方にガスガス話しかけたりもするんですよね。
-- ガスガスと、どんなことを言うんですか。
北原:うちのマルシェに出てくれませんか、とか。
-- あ、今さらですが、そんな積極的なタイプなんですね。
北原:基本的にはコミュニケーションは苦手です。知らない人にはあまり話しかけない。
-- でも食に関しては。
北原:ガスガス行く。自分の中で、それだけ「食」が大事なんでしょうね。家族と自分にとって、「食」の追求は穴を塞ぐ作業ではなく、もっといいものにしたいという、好きでしている作業、営み。
-- そう聞くと、たまたまでしたけど、農家を継ぐことになって良かったんですね。自分ちで作った米は、おいしいですか。
北原:うん、うちの米、やっぱりおいしいなって思います。自分と家族にとって「食」は大切なものだから、佐賀に来て良かった、農家をやって良かった。そう思います。
「農業を始めたい人には、ウェルカムな地域です」
-- これから移住してくる人、特に農業を検討している人にアドバイスはありますか
北原:佐賀県は県内にいくつも農業のモデル事例があって、たとえば米だったらこれくらい面積があれば食っていけますよとか、逆にこれくらいのサイズしかなければこういう作物を作ったら生計が立ちますよとか、そういうことを教えてもらえます。
-- 行政による、新規就農支援や、技術習得のための様々な研修がありますね。
北原:佐賀県の農林水産部が取りまとめをされていると思うのですが、県の農業振興センターや各市町の農政関係の課とか、相談に行けば適切な部門に繋いでくれて、相談に乗ってくれるはずです。
-- 作物ごとの、研修への参加者募集なども見かけますね。
北原:最近だと、キュウリとイチゴとホウレンソウとか、やってましたね。ハウス栽培の技術、経営の仕方を2年くらいかけてみっちり教えてもらえる制度があります。あとを継ぐにしても、新規で始めるにしても、そういうものを活用するといいかなと。だから県としても、市町としても、手を挙げてくれる人はウェルカムなんだと感じています。
-- 佐賀県は食料自給率が99%(※)。食べるにも、作るにも、豊かな地域です。
北原:それもそうなんですけど、就農、移住を考えている方は、オンラインで情報を集めるだけではなく、実際にここに来て、五感で江北町を味わってほしいと思いますよ。米や玉ねぎを食べてみる。作っている人に話しかけてみる。そうしないとわからないことが多いですからね。
-- 江北町の、ベリーボタンの活動などで北原さんを見かけたら、ガスガス話しかけていいということですね。
北原:はい、根暗ですけど、はい。大丈夫です。
(※)農林水産省「令和4年度都道府県別食料自給率」(カロリーベース、概算値)

(ベリーボタンのマーク。「佐賀のおへそ」は、県のほぼ中央部にある江北町の愛称です。)
ベリーボタンのSNSアカウント
Instagram:https://www.instagram.com/belly88button/
佐賀県の新規支援事業まとめサイト
「農業をはじめよう!がばいよかとこ佐賀で! 」
https://agri.mynavi.jp/saga-agri/
文章:いわたてただすけ
写真:川浪勇太

